QE-LABO 札幌でフリーコピーライター/デザイナーとして活動する五十嵐渉による、
問い(Question?)と気付き(Exclamation!)の発信基地。いろんな問いをお届けします。

プーさんと仲間たち そのままでいこう

『プーさんと仲間たち そのままでいこう』を読んで
PHP研究所=編、PHP文庫

 

コピーライティングの勉強をしようと思い、世界で一番多くの人に愛される言葉を作っているのはディズニーじゃないか、ということで一年ほど前に買った本。
「大事なのは、自分であること」「情報との付き合い方」など日常のテーマについて、『くまのプーさん』のキャラクターたちの「心のクセ」、つまり「そのキャラクターらしさ」で柔らかく教えてくれる本でした。
1つのテーマごとに見開き1ページの短い文章で書かれているので、読むのも簡単で、まさに「全ての人に読んでもらうこと」を想定した本だと思います。

この本で終始伝えられているのは、「あなたはあなたらしくいていいんだよ」というテーマでした。心はいろんな様子に変わるし、関わる周りの人もそれは同じ。だからそうした自然の成り行きをありのままに受け入れて、自分を無理に変えることなく、自分らしくいようよ、というようなことがメインテーマとして、随所に散りばめられていたように思います。

 

僕が物心ついて20数年、学校やテレビや漫画やインターネットなど、ありとあらゆる場面でこの「自分らしく」というキーワードに触れてきました。僕自身も当然のようにその言葉を使いますし、「自分らしく生きる」ことが良いことだと思っています。
でもどうやら、この「自分らしく」という言葉は、思ってる以上に扱いの難しい言葉なんじゃないか、とこの頃は思うのです。
「自分らしい」という言葉を「自分で自分のアイデンティティを確立する」という解釈をしている人が、かなりの大多数いるのではないか、と思うのです。
逆に言うと「他人に決められた自分は自分ではない」という考え方です。これは「自分らしい」という言葉のかなり危険な解釈だと、僕は思います。
この「自分らしい」というキーワードは、最近では「仕事」とセットで耳にする機会が多いです。「自分らしく働く」という言葉であったり、「自分の好きなことを仕事にする」という言葉であったり、本でもネットの記事でも、あらゆるところで目にします。
それ自体は別に問題はないと思いますが、そこに「自分らしさを自分で決める」という思い込みが混入している場合は、危険なんじゃないかと思うのです。

 

そもそも「自分らしさ」って何ですか?
「あなたらしさを教えてください」って言われたら、何と答えますか?

たぶん、すっと答えられる人は少ないのではないでしょうか?
何をもってして「自分らしさ」というのか。何が自分の「自分らしさ」なのか。はっきりと言うことはかなり難しいと思います。

それはなぜだと思いますか?
なぜその問いかけに答えるのは難しいのでしょう?

 

答えはシンプルです。
それは「自分を中心に考える」から難しいのです。自分を中心にして自分らしさを考えるから、難しくなるのです。
本当に自分らしさを考えるなら、もっと広い視野で、ふかんの位置から自分を見るべきだと思うのです。家族の中で、会社の中で、地域の中で、国の中で、社会の中で、そういった広いところの中で自分がどこにいるのか、それを見ることが本当の自分らしさを見つける方法だと思うのです。

 

想像してみてください。
あなたの大切な人、例えば父親が亡くなったとします。あなたは亡くなった父親のことを改めて考えて見ると、一体父親がどんな人間だったのか、よく知らなかったことに気がつきます。そうしたら、あなたはどうやって父親のことを知ろうとしますか?
父親が残した日記を探すでしょうか?母親に聞いてみるでしょうか?ちとやの職場の同僚、部下、取引先の方に話を聞いてみるでしょうか?父親が仕事の成果として残したものを見るでしょうか?趣味の友達に聞いてみるでしょうか?
そうして浮かんでくる父親の姿が、本当に父親らしいものなのではないでしょうか?
もし生前の父親に「親父ってどんな人?」と直接聞いたとしても、先ほど僕が問いかけたように、うまく答えてはくれないでしょう。

その人らしさとは、その人と関わる人・ことの間に生まれるのです。
その人が関わるコミュニティの中でその人らしさが形成されるのです。
だから自分の中を探しても、「自分らしさ」なんてどこにもないのです。自分を含む外の世界をみないことには、自分らしさなんて見つかりません。

だから「自分で決める自分らしさ」というのは幻想なのです。
「自分にはこの仕事は向いていない」とか、「これは自分のやりたいことじゃない」ということと「自分らしくない」と結びつけることは、とんだ勘違いです。
「こういう仕事をするのが自分らしい」とか「こういうものが好きなのが自分らしい」というのは、それが「どんなコミュニティ」で「どんな人と関わるか」ということを抜きにして直接「自分らしさ」にはなり得ないのです。
それも当然です。自分一人しかいないのなら、「自分らしさ」なんて考える必要がありませんから。周りに人がいるからこそ「自分らしさ」という考え方が生まれるのだから、「自分らしさ」を考えるなら他者との関わりを考慮しないことには成り立たないでしょう。

最近の「自分らしさ」という言葉には、この「他者との関わり」という観点が抜けている人が多いのではないかと感じます。正確には、そう言う人が多いんじゃないかと思うような情報が多いと思います。

 

最近、僕のフェイスブックにある広告が流れてきます。
「あと3年で30歳。自分らしく働きませんか?」
という転職支援サービスの広告です。

僕の世代はいわゆる「ゆとり世代」といわれる世代の端っこあたりの世代です。
周りの人からよく「その世代って3年くらいで仕事やめちゃうよね」と言われます。実際同じ年代で既に転職した人もいますし、これから転職する人も多いのではないかと思います。だからこそ先述したような広告が流れてくるのだと思います。
それが悪いとか良いとかいう話ではなくて、そういうことを考える時に「自分らしさ」を根拠にするのをちょっと待ってほしい、と思うのです。
あなたが使っている「自分らしさ」という言葉は、どういう意味ですか?何をもってして「自分らしさ」といっていますか?ということを、今一度自分に問いかけて欲しいのです。

 

すっかり忘れていましたが、これは読書感想文でした。
この本のタイトルは「プーさんと仲間たち」です。ほら、ちゃんと「仲間たち」という言葉が入っています。確かにこの本はそれぞれの「キャラクターらしさ」を描いていますが、その前提として「みんな100エーカーの森の仲間たちだよ」ということも書かれています。彼らは好き勝手に自分のキャラクターを貫いているのではなく、「100エーカーの森の仲間」として、自分らしさを発揮しているのです。

今あなたが使っている「自分らしさ」という言葉がどんな意味なのか、今一度考えてみて欲しいと思います。