QE-LABO 札幌でフリーコピーライター/デザイナーとして活動する五十嵐渉による、
問い(Question?)と気付き(Exclamation!)の発信基地。いろんな問いをお届けします。

逆説のスタートアップ思考

『逆説のスタートアップ思考』

馬田隆明=著

 

短期的で急速に成長する一時的な組織体のことをスタートアップという。そのスタートアップの持つ反直感的で逆説的な特徴について「アイデア」「戦略」「プロダクト」の観点でまとめられた本。
一緒に仕事をするパートナーの方からクリスマスにいただいた本なので、読書感想文もやや遠慮しがちになりそうではあるが、そこはあえて素直に感想を述べることでお礼に返させていただきます。

 

まず読み終わって最初に感じたことは、「この本には自分の求めることは書いていない」ということである。それもそのはず、自分で選んだ本ではないからである。これが本を人からもらう醍醐味であると思う。
普段自分で選んで読む本は、当然のことながら「自分の興味関心のある本」である。満足するかしないかはその本の出来次第だが、そもそも何かを求めているからこそ、満足感がその本の評価の一つ軸になっているのである。
しかし人からもらった本、もしくは勧められて読んだ本には、そういったいわゆる期待感がない。とすれば、僕がこの本から何を得たか、もしくは何を得ようとしたかということに着目してみると、そこから色々なことがわかるのだと思う。それが人からもらった本を読む楽しみである。
当然、人からもらった本を読むのにはそれなりにエネルギーが必要ではあるが、幸いこの手のビジネス本は各章のまとめなどが丁寧に書いてあるものなので、読み方を工夫すればページ数から想像するよりも早く読むことができる。未知への期待感を考慮すれば、案外ハードルを低くして読み始めることができるものだ。

 

というわけで、僕はこの本から何を得ようとして、何を得たか、という話。
誤解を招かないようにひとこと言っておくが、本を読んで何かを得なければならないというわけでは決してない。これは単に、僕がそうしたいと思っているだけで、読書とはもっと自由なものであることを断っておく。とにかく今の僕は、一冊の本から何を得るかということに喜びを覚えているのである。

 

さて、ようやく本題である。
僕はこの本から何を得ようとしたか?

 

正直にいえば、僕はかなり批判的な目でこの本を読んだ。この本はスタートアップの方法論について書かれていて、僕はその手のいわゆるハウツー本的なものには「必ず何か大切なことが抜け落ちている」と偏見を持っているからである。
そもそも僕は1から10まで教えてくれるものに対して価値を感じない。大事なのはいかに0の状態から1を学ぼうとできるかであり、いかに10から先に進む力を養うかであると思っているからだ。0から1へ進もうという気概があれば、1から10の進み方など知らなくてもどうにでもなる。
実際、この本の最後にも筆者自らがこう語っている。
「スタートアップを学びたいなら、スタートアップを始めることが最も近道」と。まさにその通りであると思う。本の中で紹介される過去のスタートアップ先駆者たちの話でも、「彼らはスタートアップを学んだから成功した」とは一言も書いていない。つまり極論を言えば、スタートアップの方法論を知ることとスタートアップで成功することは全く関係がないのである。
当然筆者はそのこともよくわかっていて、前置きの時点でこの本の目的、願いも語っている。より多くのイノベーションが必要とされる現代社会において、スタートアップ思考をスタートアップ以外の様々な分野でも活用してもらいたい、というのがこの筆者の思いである。つまり、スタートアップの1から10のことを伝えることはこの本の手段であり、本当の目的はその1から10の方法論を読んだ人なりに応用してもらうことだと、僕は解釈する。
とすれば、この本に書かれたことを真の意味で活用するためには、1から10を扱うための0の地点、あるいは1から10のその先のことを考える力、もしくは実行する力が必要なのではないだろうか。
しかし残念なことにこの本の主軸はやはり「1から10」のことであり、それ以外の部分は頭の片隅に置いておいて、という程度にしか感じられない。恐らく、スタートアップについて知りたいと思っている人の目にはとまることがないだろう。
僕がハウツー本に対して偏見を持っているのはつまり、筆者には見えているはずの1から10以外のことが、たとえ筆者が重要だと思っていても読者には伝わりにくいからである。ハウツー本というカテゴリーがそういう性質なのではないかと思うのだ。

 

今回、「もらった本である」ということで、そもそも「1から10」を学ぼうと思わないで読むことになった。つまり僕は最初から「1から10以外のこと」を学ぼうとしてこの本を読んだのだ。すると面白いことに、こうして「1から10以外のこと」について考えることができている。これは非常に面白い。
僕はこの本から「この本に書いていないことを得ようとして、得ることができた」のだ。

 

普通は書いてあることから何かを学べると思うだろうし、僕もそうである。だから僕はこの本を読むときに「書いていないことは学べないだろう」と思っていた。しかし、書いていないことを得ようと思って読んでみると、その通りの結果が得られたのだ。
これはまさに反直感的で逆説的な学びであったと言える。僕らは学ぶ対象がなんであれ、学びたいと願ったことを学ぶことができるのである。

 

僕はこの本から「この本に書いていないこと」を得ようと思って読んだ結果、「どんなものからでも学ぼうという意志があれば学べる」という気づきを得た。
本というのは、そこに書いてある文字の連なりから情報を得るだけのものではなく、もっと大きなスケールで学びを与えてくれるものなのだ。