QE-LABO 札幌でフリーコピーライター/デザイナーとして活動する五十嵐渉による、
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いがらしわたるの怪異レポート’18 ④

いがらしわたるの怪異レポート’18 ④

 

今回はこれまでと少し趣向を変えて「90年代の出来事」などから少し考察してみようと思う。というわけで、まずは90年代の主な出来事を年表にまとめてみた。

調べ方は、「90年代 出来事」と検索し上位に出てきた数サイトに共通しているものから、各年5つ程度をピックアップした。基本的に僕自身の記憶にないものがほとんどなので、「記憶がなくても知っている」ということを一つの基準として、概要を見て印象に残ったものを抜粋した。

基本的には日本国内の出来事を抜粋しているが、日本にも大きく影響を与えた(ニュースや紙面を賑わした)であろう出来事は海外の出来事も抜粋している。

 

1990年

・アニメ『ちびまる子ちゃん』が放送開始。

・礼宮文仁親王ご成婚

・大学入試センター試験開始

・長崎市長銃撃事件

・三井銀行と太陽神戸銀行が合併

 

1991年(いがらしわたる誕生)

・広島新交通システム橋桁落下事故

・千代の富士引退

・ジュリアナ東京オープン

・雲仙普賢岳の噴火

・湾岸戦争が勃発

 

1992年

・尾崎豊死去

・毛利衛がスペースシャトルで宇宙へ

・きんさん・ぎんさんブーム

・東京佐川急便事件

・学校週休2日制の開始

 

1993年

・Jリーグ開幕

・皇太子徳仁親王ご成婚

・北海道南西沖地震で奥尻島に被害

・平成の米騒動

・バブル崩壊

 

1994年

・松本サリン事件

・プレイステーション発売

・全国各地で水不足。東京で観測史上最高温度の39.1度を記録

・イチロー200本安打

・つくば母子殺人事件

1995年

・阪神淡路大震災

・地下鉄サリン事件

・Windows95発売

・高速増殖炉「もんじゅ」事故

・全日空857便ハイジャック事件

1996年

・北海道豊浜トンネル岩盤崩落事故

・たまごっちブーム

・O157が発生

・将棋棋士の羽生善治が史上初の七冠王

1997年

・消費税5%に引き上げ

・神戸連続児童殺傷事件

・北海道拓殖銀行破綻

・映画「もののけ姫」

1998年

・長野オリンピック開催

・アントニオ猪木引退

・若乃花勝が横綱に昇進し、史上初の兄弟横綱が誕生

・和歌山毒物カレー事件

1999年

・iモードサービス開始

・全日空61便ハイジャック事件

・乙武洋匡『五体不満足』が400万部のベストセラー

・池袋通り魔殺人事件・下関通り魔殺人事件・桶川ストーカー殺人事件など凶悪事件が相次ぐ

 

以上、とりあえず羅列してみたが、いかがだろうか?

僕自身は1996年の「O157」とか1997年の「もののけ姫」とか1998年の「長野オリンピック」「和歌山毒物カレー事件」あたりからの記憶しかなく、それ以前の出来事に関しては後に情報を得て知っているだけのものがほとんどである。

実際に90年代を実感として記憶している方々からしたら、これらの出来事はどれくらい覚えているものなのだろうか?

あるいは、ここに上がっているもの以外にもっと強烈に記憶しているものはどれくらいあるだろうか?

 

何はともあれ、「怪異」というのはその時代の人々の心から生まれてくるものであるから、こういったその時代の出来事というのは、ホラーな世界に何かしらの影響を与えていると考えるのだが、それは一体どんなものであろうか。

この出来事年表と、前回・前々回とテーマにした小説と映画の年表とを比べてみよう。

 

<小説>

1991年 リング

1993年 転校生

1995年 白い少女

1996年 仄暗い水の底から

1997年 ホワイトハウス

 

<映画>

1995年  学校の怪談

1996年  女優霊

1997年  CURE

1998年  リング

 らせん

1999年 死国

 富江

2000年 呪怨(ビデオ作品)

 バトル・ロワイアル

 

いかんせん小説は読んだものだけなので数が少なくあまり参考にならないが、映画の方はそれなりに参考になりそうである。

映画のテーマの時にも書いたが、日本のホラー映画は90年代の後半になって活発になっていく。

世の中の出来事の影響が作品に現れるまで数年のブランクがあるであろうことを考慮しても、ホラー映画の台頭というのは90年代の特徴であると言えるだろう。90年代前半からの様々な要因が「怪異」を生み出していたはずである。

 

まず気になったのが1995年の「学校の怪談」である。この当時、映画以外にもアニメやTV番組などでこの学校の怪談がテーマとなることは多かった。

それと関連する出来事はないかと探してみると、今回ピックアップした中では「1990年大学入試センター試験開始」「1992年学校週休2日制の開始」が学校関連である。特に学校週休2日制の開始というのは、少し興味深い。はじめは第2土曜日が休みとなるだけであったが、子供の立場にしてみれば授業が1日減るというのは大きな出来事である。1997年の「神戸連続児童殺傷事件」という少年による凶悪犯罪が起こったことからも、この時代の子供は大きな揺らぎの中にいたことがわかる。

子供というのは怪異を生み広げるには効果的な媒体であるから、90年代の後半からホラーが活発になるのは納得でもある。

 

次にきになるのはやはり「阪神淡路大震災」と「地下鉄サリン事件」である。今回の企画の始まりも地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教の松本死刑囚の死刑執行のニュースをきっかけとしていたし、北海道では今年全道が停電になる大きな地震のあった。どうしても気にならざるを得ない。

「阪神淡路大震災」と「地下鉄サリン事件」がホラーに与えた影響とはなんだっただろうか。あるいは、ホラーとこの二つの出来事に共通してみられる特徴はないだろうか?

 

小説や映画の考察のときにも書いたのだが、この時代のホラー作品には「わからないもの」が描かれていることが多い。わからない不思議なものを、わからないまま描いているのである。それが幽霊であれ呪いであれ妖精であれあの世であれ、それはそういうものだとわからないまま受け入れるものがほとんどなのである。

それに対して、地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教はいわゆる新興宗教であり、誤解を恐れずに端的に言うなれば「世界のわからないことに新しい意味を与える」ことがこういった宗教の果たしている役割である。オウム真理教の場合、この宗教の教えというものが、当時の若者を中心に熱狂的に受け入れられたらしいが、それは当時の若者がわからないものに対してなんらかの「説明」を欲していたことが原因とも考えられるし、わからないものをわからないものそのまま受け入れたいという欲求があったとも考えられる。

いずれにしても、「わからない」ということに対しての一種の神話が崩れていったことが原因かもしれない。

 

1992年には毛利衛がスペースシャトルで宇宙へ、ピックアップには入っていないが1990年と1994年にも日本人が宇宙へ行っている。

宇宙というのは未知の象徴でもあるが、その宇宙がアポロ計画以降グッと現実に近いものになり、日本人の宇宙飛行士の誕生によりさらに身近なものになった。

こういった科学の進歩は「わからない」を急速に減らしていったに違いない。また90年代には「windows95の発売」によるPCの普及の加速や、携帯電話が一般に普及し始めた頃でもあり、それまでと比べると情報の伝達スピードに革命が起きた時代だとも言える。情報の伝達が活発になると同時に、疑心や不安も同時に広がるスピードをあげた。

年表には入れられなかったが、僕が90年代に強く記憶していたことの一つに「ノストラダムスの大予言」がある。「1999年7の月に人類が滅亡する」という予言を信じていた人も多かったのではないだろうか?僕は当時7,8歳で、それなりに予言を恐れていた記憶がある。

 

「わからない」が消え始めると同時に「わからない」が蔓延していた時代、それが90年代だったのだろうかと、今回の考察をしていてなんとなく思い始めた。

バブルというある意味正気ではない時代が終わり、ふと冷静になったときに訪れた急速な情報化の波。波に乗ることなどとてもできずに、波に飲まれていることすらも気づかずに我々はこの時代を通りすぎて行ったのだろう。

 

今回の考察は、参考資料の収集の仕方も、考察の仕方も大変雑に行った。基本的には全て僕の妄想である。もっと本格的に研究してもいいのだが、それはどこかの誰かに任せようと思う。

僕はホラーというものを通して大いに「わからない」という刺激を受け、満たされたいがためにこうして定期的にホラーに触れたいだけである。

 

このシリーズを読んでくれた方もたいがい物好きな方であると思うが、この拙い連載を読んで何か一つでも「わからない」と思っていただけたのなら、大変満足である。なぜならその「わからない」こそが、怪異を生み出すエネルギーであり、また怪異の謎を解き明かすエネルギーでもあるからである。そのエネルギーを生み出すきっかけを作れたのなら、大満足だ。

 

では、一応「夏の」怪異研究レポートはここまで。

また書きたいネタが溜まった頃にやろうと思います。

それでは。